春、恋。夢桜。
「でも、あなたの場合は少し違うのですよ。
月美丘の桜にあなたがついた時からずっと、周りには1本も花がなかったでしょう?」
そうじゃ……
思い返してみれば、おかしな話かもしれない。
あの丘には、桜が1本あるだけで、他には1本も花が咲かなかったのじゃ。
何百年もの間……―――
花の種なんて、風に乗ってすぐに運ばれてくるものじゃし
誰かが持ってきたとしても不思議じゃない。
それなのに……―――
「それは、あたくしがあの丘に花が咲かないように、操作していたからなのです」
「そんな……どうして?」
別に、紅姫様を恨んでおるわけではない。
じゃが、わしはずっと1人で暇を持て余しておった。
響にも正直には言わんかったが、1人はやはり、淋しいものじゃった。
それでも我慢しておったのは、花の精が皆同じ条件じゃと思ったからなのに……
わしだけじゃったと言うのか?