春、恋。夢桜。
「この話を聞けば、あなたはきっと辛い思いを抱くことでしょう。もしかしたら、人間を恨むことになってしまうかもしれません。
……それでも、あなたはこの話を聞いてくれますか?」
少しずつ、わしの様子を窺いながら紅姫様が言った。
その態度からは、わしを気遣う気持ちが本当に強く伝わってくる。
そんな姿を見て首を横に触れる程、わしの心は固くない。
「その話、聞かせてくれんか?」
わしは、すーっと息を吐き出した。
さすがに、紅姫様の話す内容には驚いたし、緊張もした。
どのような過去が自分にあるのか……?
それは、もしかしたら知らない方が楽なことかもしれない。
それでも……―――
それでも、わしはきっと、この話をしっかりと聞かなくてはいけないと思うのじゃ。
自分を守るために。
自分を信じるために。
皆を、信じるためにも。
「では、今からすべて話しましょう」
紅姫様は静かに、すっと息を吸い込んだ。