春、恋。夢桜。

【三】

あの夜から、俺は毎日、カズハと話した。


カズハと出会った丘は、月美丘[つきみおか]というらしい。


「心配だから道だけでも教えろ」
という母親に説明したら、教えてくれた。


でも、カズハの言ってた「澄月町で一番月が綺麗に見える」というのは、どうやら周知の事実じゃないらしい。


母親の話では、もともと月が美しく見えることで有名な澄月町だから、誰も追求したことがないとか。


カズハにこのことを問い詰めたら

「わしがこの丘の桜のあの枝から見る月が一番綺麗だと思っておるのじゃから、間違ってはなかろう！」

なんて、自信満々に言われた。


木から半径３メートル圏内しか動けない奴が何を言ってんだか……。



カズハとは、本当にいろいろな話をする。


でも、長い間人と直接コミュニケーションをとっていなかったカズハには、知らないこともたくさんある。


それを逐一、俺が教える羽目になったのは言うまでもない。
< 16 / 237 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop