春、恋。夢桜。
 
『生贄を捧げるのじゃ』

『生贄を差し出せば、神様の怒りも静まるじゃろう』


そう叫び出した町の人々の口は

すでに止まることを知らないようでした。


「神に生贄を捧げれば、桜の花の異変は治まる」


そう助言をしたのは、当時あの町で強大な権力を握っていた占い師でした。


『生贄は若い娘である必要がある』

『生きたままの若い娘を、桜の木の根元に埋めるのじゃ』

『大きな、深い穴が必要じゃぞ』


自分勝手に話し、喚く人々が、そこにはいました。


しかし彼等は皆、真剣で、真面目だったのです。

何もできないあたくしは、それをただ見ているしかありませんでした。


とても、悔しかったのですが…………ね。


そして、その次の日でした。

1人の少女が、人々によって月美丘へ連れられてきたのです。
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