春、恋。夢桜。
 

いきなりのことに

あたくしの頭は上手く話についていってはくれませんでした。


『今日からそなたを紅姫と名付けます。私の代わりに、しっかりと役目を果たして下さいね』


その方がそう微笑んだ瞬間、あたくしの体は銀色の光に包まれました。

そして、あたくしは今の格好と髪型になったのです。


『あの……。月美丘の……あたくしが今までいた桜には、新たな精をつけて下さるのですか?
それとも、まさか……あのまま?』


背を向けてどこかへ行こうとするその方に

あたくしは必死で声を掛けました。


その方の体は、少し半透明になっていました。


きらきらとした光に包まれたその方を見た時に思ったのです。


きっとこのまま消えていくのだろう……と。


だからあたくしは、その方を呼び止めなければ、とそのことで頭がいっぱいでした。
< 167 / 237 >

この作品をシェア

pagetop