春、恋。夢桜。
確かに……


俺はベッドで寝てたんだから、これが夢ってことには納得できる。


「じゃが、夢ではないのじゃ」

「は?」

「これは響の夢じゃが、夢ではない。
紅姫様が言うには、響の夢にわしの意識と映像を送り込んでおるらしい」


だから、夢じゃないってことか?


もしも夢なら、目の前にいる麗華は

俺の中で勝手に作りだした偽物になるはずだ。


でも、ここにいる麗華は麗華の意思で動いてて、偽物じゃない。



本物の、麗華本人か……――――


「お前、本当に麗華なんだな?」

「あぁ。そうじゃ!」


そうは言っても、俺が勝手に、目の前の“本物の麗華”を作り出しただけかもしれない……


でも、あまりにも明るい声と笑顔でそう答える麗華を見たら、何だか妙な気分になった。


どうして桜がなくなることを教えてくれなかったのか。

どうしてこんな形で俺の前に姿を現したのか。


どうして、そんな風に笑っていられるのか。


聞きたいことも、問い詰めたいこともたくさんあるはずなのに

それらを全てどうでも良いと思わせてしまうような……


そんな空気が、ここにはあった。


「でな、もう1つじゃが……」
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