春、恋。夢桜。
強く睨みつけてくる麗華に、俺はがばっ、と背を向けた。


麗華の表情は怒りを表してるようにも見えた。

でも、そんなものはどうでも良かった。


どこにも発散することができない弱さと情けなさの塊を

俺は気づけば、全部麗華に向かって放り投げていた。


それに気がついてから取り繕おうとしたけど

結局そんなことはできるはずもなくて……



その結果が、これだ。



「響がそんなに軟弱な人間じゃとは思っとらんかった……。がっかりじゃよ」


さっきとは打って変わった落ち着いた低い声が、真っ暗な空間に響き渡った。


「響、お主はそんなにもはやく死ぬつもりなのか?
違うじゃろうが!可能性はゼロではないんじゃぞ?

確かにそれは全て、紅姫様の腕に託されておるが、それを信じて待ってみても良いではないか!」


「信じる、って……。前に麗華が言ったんだろうが。
『夢や願いは、願うだけじゃかなわない』って、『それが夢だと忘れるくらい猛烈に行動するしか、夢を叶える道はない』ってさ。

でも俺には、俺の夢とか願いとかを叶えるためにできることなんて何もないじゃねぇか!

信じたり願ったりするだけじゃ何も叶わないのに、俺のできることはそんな無駄なことしかねぇんだろうが!」


こんなにも、大声を出したのは、生まれて初めてだった。


足を怪我した時だって、言いたいことは山ほどあった。

でも、自分の感情なんて全て胸の中に押し込んでたんだ。


誰かに言葉としてぶつける選択肢がなかったわけじゃない。


でも、先の見え切った相手の返答にいちいち付き合うこと程

馬鹿げたことはないと思ってた。



でも……―――――
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