春、恋。夢桜。
【二】
「キョー、お主は阿呆か」
いつものように月美丘へ行くと、カズハはいつものように桜の枝にいた。
そして、ふと昼間の女子生徒達の会話を思い出してカズハにたずねたら……
答えが、これだ。
「カズハ、お前、阿呆って……」
「キョーは阿呆じゃ」
カズハは、すぱっと言い切った。
「阿呆はないだろうが」
下を向いてため息を吐いた俺を見て、カズハはゆっくり話しだした。
「夢を叶える……、か。そんなもの、無理に決まっておろう?」
「え?」
「わしは、寝ても覚めてもただの桜の精じゃ。
精は花に寄り添い、時の成り行きに任せながら、花に与えられた命の分だけ、その花の美しさを保つことしかできぬ」
そう言うと、カズハは軽く笑った。
「人間の夢まで叶えてやる余裕もなければ、そんな力もない」
珍しく抑揚のない声で話すカズハに、俺は少し驚いた。