春、恋。夢桜。
「……ー。キョー!」
さっきまでのカズハの様子を思い出して、少しぼーっとしていたらしい。
俺に顔を近付けて、不思議そうに覗き込んでくるカズハに気付いて、俺は後退りをした。
「カ、カズハ、お前……近っ……!」
「キョーが気づかんからじゃ!
人が話しておるのに、ぼけっとするでない!」
カズハは、少し口を歪ませて、不機嫌そうな顔をした。
これでも怒っているつもりなのか……?
全然恐くはないな。
そう思ったけど、これ以上カズハの機嫌を損ねるわけにもいかない。
俺は、素直に謝って、もう一度言ってくれるように頼んだ。
「じゃから、キョーの言っておった噂話の元になった出来事には、心当たりがあるのじゃ」
「はっ!?そんなんあるのかよ」
「当たり前じゃろう。わしはずっとここにおるのじゃ。
こやつのことなら何でも知っておる」
桜の幹をぱんぱん叩きながら、カズハは自信満々に言った。