春、恋。夢桜。
 
「いくら噂話といえども、何かしら原因がなければ広まりも、信じられもせん。違うか?

あれは確か……もう10年ほど前の話じゃ」


さっきまでと同じように、話の内容はカズハの噂話だ。


でもカズハの表情は打って変わったように明るくて……。

すっかりいつものカズハだった。


「この桜に、願掛けをしにきた少女がおったんじゃ。
誰だったかのう……。あっ『ユーキ君と両思いになれますように』じゃ!

それでの、その子は毎日ここへ来て報告をしてくれとったんじゃ」


「報告?」

「今日はユーキ君と何を話した、とか、勇気を出して一緒に帰ろうと誘った、とかな」


桜の下で目を閉じて、願掛けをする女の子を思い浮かべる。


きっとその子は、楽しそうに“ユーキ君”のことを語ってたんだろう。

それを聞くカズハが笑顔を絶やさなかったことも、簡単に想像できる。


「その子は本当に一生懸命頑張っておった。そして必ず、帰る前に願掛けをするのじゃ。両思いになれますように、とな」


そう言いながら、カズハがはにかんだ。

可愛かったのう……と、小さく呟くのが聞こえる。


こいつも十分、可愛いけどな……――――


「それで、その子はどうなったんだ?」
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