春、恋。夢桜。
「じゃが、接吻現場を見たことなら何度もあるぞ!
昔はよく、ここでもお花見なんぞが行なわれてたからのう」
「花見?」
「その頃は、桜の季節になると、いつもたくさんの人が来ておったのじゃ!
じゃから、接吻も抱擁も、喧嘩も別離も、しょっちゅう見ておったぞ」
「酔った奴等がふざけてる時の話じゃねぇか……」
その接吻からは、残念なことに色気も感じられない。
でも確かに、こんな綺麗な桜があるんだから、ここで花見をするのは良い考えだと思う。
丘にあるから景色も気分も良いし……
そう考えると、ここは花見に打って付けの場所だ。
でも今、過去形だったよな?
楽しそうに話すカズハを横目で見る。
噂話の話をしてた時みたいな影も寂しさも感じられない。
だけど……――――
「今は、俺以外に人間は来ないのか?」