春、恋。夢桜。
「あぁ。ここは夜になると月の光しか当たらぬから暗いしのう。
桜も1本しかないし、丘の上で来るのも面倒じゃから、最近ではあまり人は来ぬぞ」
俺が考えたここの長所は、短所でもあったのか……。
「昼間にキョーよりもだいぶ年をとった奴等が来ることも、ときどきある。
じゃが、基本的にはキョーが来るだけじゃ。
まぁわしは、キョーがこうして話相手になってくれれば、それで満足じゃがな!」
カズハが、眩しいくらいに爽やかな笑顔を向ける。
俺も気付いたら、自然に笑いかけてた。
「それよりも、キョーはしたことはないのか?」
「何を?」
「もちろん、熱ーい接吻じゃよ!」
「ねぇよ!悪かったな!」
お腹を抱えて笑うカズハ。
顔に手を当てて、気まずそうに顔を背ける俺。
そんな俺たちの姿を、上弦の月が静かに照らした。