春、恋。夢桜。
【三】
入学式から何日かたった頃。
父親がいきなり、泊まり掛けの出張に出掛けた。
「今日から2泊3日の出張で家をあける」
そう、朝食の時に言い放った父親に、家族全員が目を見開いたことは言うまでもない。
そんな時、転勤早々に何で出張なんだと文句を言う父親の前で
申し訳なさそうに母親が手を挙げた。
そして
「ごめんなさい。私も明日と明後日に友達と旅行に行くの。泊まりで」
と小さな声で言った。
そんなマイペースすぎる両親の発言のせいで、今日は妹と2人で過ごすことになった。
「梨恋[りこ]、夕食は何が良い?」
「……響兄が作るの?」
「当たり前だろーが。何も準備してないからな」
「本当に大丈夫かな……?」
小さくそう呟くと、梨恋は腕を組んで考え込んだ。
そんな姿に、思わず笑う。