春、恋。夢桜。
遠くに見えた並木道に惹かれるように、公園を左へ曲がった。
そのまま、静かな住宅街を抜ける。
左右に青々と茂る並木を見送りながら、行き止まりで自転車を止めた。
目の前には小高い丘。
何かに吸い込まれるように、頂上へ続く土の階段を、一段一段登る。
登りきった先……
ふと視線を上げると、1本の桜の木が飛び込んできた。
太くて、ゴツゴツした幹。
大きく広がった枝。
淡く色付いた蕾。
たった1本。
それなのに堂々と佇む姿に、強く惹かれた。
桜の根元に座って、幹に身を預ける。
この町に来て良かったのかもしれないな……――――
そう心の中で呟いて、俺は目を閉じた。