春、恋。夢桜。
「少し外に出てくるから。夕食までには戻るよ」
「何?響兄もついに彼女ができちゃったわけ?」
「違うよ。
てか、梨恋。お前、昨日からそればっかじゃねぇか!最近の小学生はどんだけませてんだよ」
「えー、響兄おじさんみたい!これくらい普通だもん!ねぇ、ママ?」
「梨恋にはまだ早いわよ。響も、遊んでばっかいないで、勉強もちゃんとしてよね」
「だから遊んでねぇって……。あぁー、まぁいいや。とにかく、行ってきます」
まだ騒がしいリビングを早々に切り抜けて、玄関へ向かった。
スニーカーを履いて、ドアを開ける。
澄月町へ引っ越してきたばかりの頃の肌寒さは、もうとっくになくなった。
いつも学校へ向かうのとは逆の方向へ、自転車を進める。
まだ明るい時間にこの道を通るのは本当に久しぶりだ。
下校中の小学生や、母親と手をつないで歩く子供達の間をすばやく通り抜ける。
最近になって塗り替えられた、公園の滑り台の青には、夜には気付かなかった不自然さが漂ってる気がする。
そこを曲がった先の住宅街は相変わらず静かで
相変わらず威勢よく茂る並木の所まで、すっと導いてくれた。