春、恋。夢桜。
俺、櫻井響[さくらい きょう]は
今日、澄月町[すみつきちょう]へ引っ越してきた。
本当なら引っ越しは、俺と妹が春休みに入ってからする予定だった。
でも、春休みまではあと少し。
欠席しても、別にどうってことはないだろう。
だから、俺と母親は訳があって、一足先にこっちへ来た。
居心地の悪い世界から、少しでも早く抜け出したくて、妹と父親を残してきた。
俺は別に、何かでもてはやされたり、誉め讃えられたりするような立派な人間じゃない。
どこにでもいるような、普通の高校2年生だった。
髪を染めることも、ワックスで遊ばせるようなことも特にはしていない。
でも、勉強はそれなりにやる、割と真面目な高校生。
2年になってからは休みがちだった頃もあったけど、心は至って健康だった。
この機会に、今までやめていた……というか
止められていた夜のジョギングを再開する予定だった俺は、コースを決めるために昼間のうちに外へ出た。
前に住んでいた場所が田舎だったからかもしれない。
芝生の中心にそびえ立つ桜に自然を感じられるこの丘が気に入って
さっきまでの道のりをジョギングのコースに決めた。
ゆっくりと立ち上がって丘を下る。
確か、行きにコンビニを見かけたはずだ。
適当に弁当でも買っていこう。
そう心の中で呟いてから、俺は足を踏み出した。