春、恋。夢桜。
「カズハー!いるか?」
すっかりとピンク色に染まった桜を見上げながら、俺はできるだけ大きな声で叫んだ。
ゴツゴツとした幹にそっと触れて、真下から枝を覗き込む。
すると、タイミングを見計らったかのように、桜の花よりも少し濃いピンク色の着物と赤い帯が見えた。
「キョー!お主がこのような明るい時間に来るとは、珍しいこともあるのう」
顔いっぱいに笑みを浮かべるカズハは、どこか幼く見える。
だが、その笑顔は本当に澄んでいて、まぶしくて……
俺を含めた全ての人間がこんな風に笑えたら良いのに
なんて、柄にもなく思う程だった。
「昨日の晩はどうして来んかったのじゃ?わしはずっと待っておったのに……」
枝からふわりと舞い降りたカズハは、さっきとは違う少し淋しそうな顔で言った。
「悪かったな。本当は来る予定だったけど、ちょっと執り込んでてさ」
「そうか……。もう来てくれんのかと思って不安だったんじゃ。でも、こうしてキョーが来てくれて安心した!」
「大丈夫だ。カズハがここにいる限り、俺がここに来なくなることなんて、当分ないからさ」
そう言って少し微笑むと、カズハはまた、もとの笑顔に戻っていた。