春、恋。夢桜。
まだぽつぽつと不満そうな声で何かを呟く梨恋に隠れて、少し苦笑いをする。
梨恋には
「月美丘に綺麗な桜があるから見に行くぞ」
としか伝えてない。
一瞬、
「桜の精に会えるかもしれない」
と言おうかとも思った。
でもそうすると、もしも会えなかった時に梨恋が落ち込む姿を見ることになる。
実際に何か手を加えてやれない代わりに
できるだけ梨恋の心に負担のかからない方法で、梨恋を支える柱を作る手助けをしてやりたい。
それが、俺にできること。
支えがしっかりしてれば、きっと人は、辛いことにだってある程度は耐えられる。
それが俺の導いた、俺なりのいやがらせ対策だ。
だから、俺が梨恋を傷つけるようなことをするわけにはいかない。
そんなことを考えながら進むと、俺達はいつの間にか、階段を昇りきっていた。