春、恋。夢桜。
「着いたぞ」
俺は、梨恋の手をそっと離した。
「うわぁ……。き、れい……」
桜を見上げて楽しそうにする梨恋からは
さっきまでの、文句を言いたそうな雰囲気は感じられない。
「カズハ。どこだ?」
俺は、梨恋に聞こえないように、そっとカズハに呼び掛けた。
「わしはここじゃ!キョーのすぐ後ろにおるぞ!」
「うぉわっ!」
同時に、いきなり後ろからとんっ、と肩を叩かれる。
びっくりした拍子に、思わず大きな声が出た。
せっかく小さい声でカズハを呼んだのに……
俺の努力は、水の泡か?
「響兄、いきなりどうしたの?何もないのにいきなり大きな声出しちゃって……」
怪訝そうな表情で、梨恋が言った。
桜に向いてたはずの視線は、いつの間にか俺に向けられてる。
「あ、あぁ。ちょっといきなり肩を叩かれたからびっくりして……」
「叩かれた?一体誰に?」