春、恋。夢桜。
やっぱり、1年近くのブランクは大きいのかもしれない。
改めてそう感じながら、俺は顔をゆがめた。
でも何となく、あの桜の木までは止まらずに走りたい。
いつの間にか外灯のある通りを過ぎていたせいで
俺を照らすのは月明かりだけになっている。
丘にかかる階段を一気に登りきって、昼間見た桜の木の根元に座り込む。
夜に見る桜は、少し不気味な雰囲気を漂わせているような気がした。
幹に身を委ねて、空を仰ぐ。
相変わらず肺は苦しいし、足の筋肉は変に固まったままだ。
見上げた空には、満月がぼうっと輝く。
俺は、何かの糸に引っ張られるみたいに、しばらくの間、ただ満月を見つめた。
「ここは、澄月町で1番綺麗な月を見ることができる場所なんじゃ」
何だ……?
ぼーっとした頭の中にいきなり飛び込んできた声が、俺に思考回路を取り戻させた。