春、恋。夢桜。
いつもと同じペースで走る俺の背で、今日はスポーツバッグがばたばたと揺れる。
中身があまり詰まっていない鞄は、容赦なく上下に動く。
その様子がまるで、自分自身を表してるかみたいに思えた……。
「カズハー!」
いろいろと考えながら走ったら、いつの間にか月美丘に着いていた。
「待っておったぞ!キョー!」
カズハが、太い幹の後ろから、ひょこっと顔を出す。
俺は、その姿をそのまま視界に入れた。
「どうしたんじゃ?何だかぼーっとしておるのう」
「いや。何でもない」
「そうか?それならいいんじゃが……」
まだ心配そうな顔をするカズハに、俺はとりあえず微笑んだ。
「ん?……キョー、背に何を持っておるんじゃ?」