春、恋。夢桜。
俺がそう答えると、戸崎は満足気に立ち上がって、鞄を持った。
「じゃあ、正確な終了時間もわかんないし、俺等の部室で待ってろよ。
今から行くから、ついて来れば?」
俺は、黙って戸崎に続いた。
『部室』
その響きが、以前の記憶を引き出そうとする。
恋しいような……
もうどうでもいいような……
不思議な感覚を呼ぶ響きでもある。
何も話さないまま戸崎に続くと
大きく広がったグラウンドの片隅にある、2階建ての小さな建物に辿り着いた。
部屋は各階に3つずつ作ってあるみたいだ。
「2階の一番奥が、陸上部の男子の部室。その隣が女子だ。
……とりあえず行くか」
「あぁ」