春、恋。夢桜。
戸崎の言葉を遮って、着替え途中の男が言った。
「え?英二、コイツのこと知ってんの?」
「あぁ。……てか、この辺りの高校で短距離やってて櫻井響を知らないなんてさ。
お前、馬鹿か?」
英二と呼ばれた男は、呆れたように腕を組んで、戸崎を見た。
そのまま、大きく溜息を吐く。
コイツも短距離だったのか……――――
周りに短距離をやってる奴が現れる状況を、全く予想してなかったわけじゃない。
少なくとも戸崎については、陸上部だって知ってたわけだし。
でも、そこまでちゃんと構えてなかったこともあって
実際にこうなると、なかなかやりづらい。
「もう1年以上も前の話じゃねぇか。それに、そこまで珍しい話でもないし……。
戸崎が知らなくてもおかしくないだろ?」