春、恋。夢桜。
「そうか? でも、俺を含めて、結構な奴等の憧れだったからなぁ……」
まだ納得してないみたいに視線を落としたそいつは
「まぁ、いいか」と呟いて顔を上げた。
「俺は、麻生英二[あそうえいじ]。陸上部の部長」
片手を差出しながら自己紹介をした麻生に、俺も手を出した。
「あぁ。よろしく」
「よしっ! じゃあ英二、部活行こうぜ!
響は、俺の課題でもやりながら待ってろ!」
「お前の課題なんかやるわけねぇだろ。自分のやったら寝る」
「それどころか、潤はまだ着替えてもないしな。先行くぞ」
そう言いながらさっと上着を羽織ると、麻生はそのまま出て行った。
それを見た戸崎も、あわてて着替える。
制服を脱ぎ捨ててジャージに身を包むと
荷物の整理もろくにしないまま、戸崎は「じゃあな」と走り去った。