春、恋。夢桜。
少し申し訳なさそうに、カズハが俺を見上げた。
「何だ?」
「わしは、自分の名をどう書けば良いのかわからんのじゃ。
じゃから、この黒いのが使えぬ」
カズハは、サインペンのキャップをはめたり、外したりしている。
途中で視線をサインペンに向けたカズハの顔は、俺からはよく見えない。
「わかった。教えてやるから。さっきのノートを1冊、貸してくれるか?」
カズハから渡されたノートを開いて、サインペンを受け取る。
そして、まだ真っ白なノートの1ページ目に、俺はカズハの名前を書いた。
まずは、ひらがなで。
そして、カタカナも。
そこまで書いた時、俺の手が止まった。
「なぁ、カズハ。
文字にはもう一つ、漢字ってのがあるんだけど……お前の名前には漢字もあてられてないんだよな?」
「……よくわからんが、ないと思うぞ?そもそも、かんじとはなんじゃ?」
「あー……」