春、恋。夢桜。
「ならば、キョーがわしの名前にかんじを付けてくれ!」
「え?」
「そうすれば、わしの名前も書けるんじゃろ?」
「あ、あぁ……」
「よし! 早よう選んでくれ!」
俺の肩に両手を置いて急かすカズハに頷きながら
とりあえず離れるように、と頼んだ。
それから、傍に置いた鞄に手を伸ばす。
鞄の中から電子辞書を取り出すと
俺は電源を入れて、漢和辞典を呼び出した。
初めて見る機械に驚きながらも、カズハが俺の作業を黙って見守る。
一、和、数、円、紀、利、……。
一体、どのくらいの時間がた経ったんだろう。
たくさんの漢字の中から、俺はやっと、2文字だけ選んだ。