春、恋。夢桜。
 
「わしは『お前』などという名ではない!カズハじゃ。それに、ここに座っておっても、危ないことなんざ1つもない」

「ば、馬鹿言うなって!早く降りろよ!」

「……仕方がないのう。ならば行くぞ?」


そう言ったのと同時に、彼女はすっと腰を浮かせた。


「はっ!?馬鹿っ……」


一気に地面に叩きつけられる彼女を想像して、思わずそう叫ぶ。

でも、彼女の体はふわりと静かに、予想外なくらいまっすぐに着地した。


突然現れた目の前の女には、不思議なことが多すぎる。


一体、何回コイツに驚かされれば良いんだよ……。


彼女の行動や言葉遣いはもちろん、その容姿だって神秘的だ。


ぱっちりとした二重の大きな目に、薄いピンク色の頬。

肌は恐ろしいくらいに白く、美しい。

背は150センチくらい……か?

黒くて長いストレートの髪は、左右で三つ編みにされていた。


「お主、昼間もここで幹にもたれておったろう?こんな夜遅くに、どうしてここへ来たのじゃ?お主こそ危なかろう?」


上目遣いでそう言われると、何故だか少しドキッとした。


「別に危なくねぇよ。ここまでは……あれだ、ジョギングしてきたんだよ。俺の日課」

「じょぎんぐ?なんじゃ?それは。美味いのか?」
< 9 / 237 >

この作品をシェア

pagetop