春、恋。夢桜。
「わしは『お前』などという名ではない!カズハじゃ。それに、ここに座っておっても、危ないことなんざ1つもない」
「ば、馬鹿言うなって!早く降りろよ!」
「……仕方がないのう。ならば行くぞ?」
そう言ったのと同時に、彼女はすっと腰を浮かせた。
「はっ!?馬鹿っ……」
一気に地面に叩きつけられる彼女を想像して、思わずそう叫ぶ。
でも、彼女の体はふわりと静かに、予想外なくらいまっすぐに着地した。
突然現れた目の前の女には、不思議なことが多すぎる。
一体、何回コイツに驚かされれば良いんだよ……。
彼女の行動や言葉遣いはもちろん、その容姿だって神秘的だ。
ぱっちりとした二重の大きな目に、薄いピンク色の頬。
肌は恐ろしいくらいに白く、美しい。
背は150センチくらい……か?
黒くて長いストレートの髪は、左右で三つ編みにされていた。
「お主、昼間もここで幹にもたれておったろう?こんな夜遅くに、どうしてここへ来たのじゃ?お主こそ危なかろう?」
上目遣いでそう言われると、何故だか少しドキッとした。
「別に危なくねぇよ。ここまでは……あれだ、ジョギングしてきたんだよ。俺の日課」
「じょぎんぐ?なんじゃ?それは。美味いのか?」