春、恋。夢桜。
四、響
【一】
「位置について……よーい、スタート!」
小学生のような掛声の後に、俺は適度な力で地面を蹴った。
右隣を走るのは戸崎。
さすがに、現役で陸上をやってるだけあって、走る姿は格好良い。
それに、速い――――
「おっ、櫻井もやっぱり速いな」
記録を測定した先生が、そう言いながら俺のタイムを記入した。
「ありがとうございます」
「もう、陸上はやらないのか?」
「……はい、そうですね。当分は無理だと思ってます。
もう手術自体は全て終わってますけど、本気で走ると、やっぱりまだ痛みが走って……」
記録用紙を受け取りながらそう答える。
先生は少し残念そうな顔で、「そうか」とだけ呟いた。
今日の最後の授業は、体育。
種目は、陸上。
ハードル、砲丸投げ、幅跳び、短距離走を順番にやっていく、在り来りな内容で……
今日は短距離走の日だった。