春、恋。夢桜。

医者は、レントゲンに合わせた視線を俺に向けた。


「スパイクの底で付いた傷は、しっかり手当すれば、すぐに綺麗に治ります。
ただ、骨折の方はちょっと……。手術をして、しばらくの間は足に金具を入れておかなくてはいけませんね」

「しばらく……それって、大会には間に合いますか?」


なんとなく返ってくる答えがわかってた。

でも、訪ねずにはいられない。


「……はっきり言います。大会には間に合いません。金具は再手術をして取り出さないといけませんし、リハビリも必要です。
もちろん、その間は絶対安静にしてもらわないと困ります」

「それって、どのくらい……?」


「そこまでで、短くて1年。でも、その後も時々痛みが出ることはある。

だから、今までみたいに思いっきり走れるようになるには……もう少し、かかるかもしれないね」


淡々と話す医者だが、目だけは真剣だった。


そしてその目は、少し憐みの色を浮かべているようにも感じられた。
< 97 / 237 >

この作品をシェア

pagetop