Love encore-ラブアンコール-
3.そして時々は無意味な歯車にできるだけ身を任せようとする。
 朝、オフィスに着いた途端、一気に今日一日の少ないやる気が全て失われた。

 デスクの上に置いてある薄いピンク色の用紙が目に飛び込んできたのだ。

 『緊急ミーティングのお知らせ』などと書かれたその用紙には、最後に大きく『欠席不可』と書かれている。

「先輩、これ見ました?」

 この男はどうしていつも笑ってるんだろう。あたしがこんなにイラついているのに。

「今見てんのよ」

「なんだか重大発表があるらしいですよ」

「そんなミーティングを何でこんな場所でやるのよ」

 そのミーティングは、オフィスにほど近い場所にある居酒屋で行われるらしい。

「でもなんかそういうのもいいじゃないですか。俺、先輩と初めてですよね? 楽しみですよ」

 『馬鹿じゃないの?』という言葉を飲み込んだ代わりに、あたしは滝野を睨みつけた。不思議そうな顔をする滝野に更にイラついたあたしは、その用紙を丸めてごみ箱に捨てた。

 こういうとき、改めて会社という組織の中に組み込まれている自分が嫌になる。それに一体何の意味があるというのか。

 『君はもう少し、社会の歯車に巻き込まれた方がいい』。

 あのときの先生の言葉が頭の中に蘇る。面倒くさいことばかりがあたしの周りを満たしていて、上手く泳げない。何度も溺れそうになって、息をすることすら苦しくて、そういう毎日をあたしは生きている。

 どうしようもない想いを胸にいっぱい抱えながら、生きている。

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