Love encore-ラブアンコール-
 最近できたばかりの渋谷にあるバーで、あたしはもう三杯目のカクテルを飲み干しそうになっていた。

 会社のミーティングは勝手にキャンセルした。自分が偉いと間違った思い込みをしているような人間とは話す言葉もないし、偉そうな態度を取っているくせに何が偉いのか説明もできないような無能な人間とは、一緒にいるだけ無駄だ。

 そんな人間とあたし。無能な者同士でいくらあがいたって、何も変わりはしないことをあたしは知ってる。救われないことを感じる。だから一人のままでいるのだ。

 時々こんな自分を嫌になったりもするけれど、こういう考え方は多分きっと生まれ持ったもので、どんなにやめようと思ったってやめられないのだから仕方ない。それに苦しむことにも疲れた。だからやっぱりそれも考えないようにしている。そして、時々は無意味な歯車にできるだけ身を任せようとする。できるだけ痛くないように。

「ジントニック」

 近くにいたウエイターに小さく呟くと、横目で時計を確認する。

 空いたグラスを手際よく片付けながら、ウエイターは笑顔で返事をした。時刻は二三時を過ぎようとしている。

 溜め息をつきながら足を組み直した瞬間、あたしは自分の目を疑った。

 カウンターに座っていたあたしの斜め前方にあるバーの入り口ドアが開き、そこに見えたのが滝野の姿だったのだ。

「あれ?! 先輩?」

「ああ、東谷くん! 君一人でここにいたの? いやぁ、良かった良かった。早くこっちに来て一緒に飲もうじゃないか」

 相変わらず、今日もこの男の悪趣味ネクタイは変わらない。

「課長、緊急辞令で次長に昇進らしいですよ」

 滝野が耳元でそう囁いた。

 やっぱりあたしはこの滝野という男が嫌いだ。何もかもがあたしとは違う成分でできているのではないかとさえ思ってしまう。

「だから?」

「だからって…先輩驚かないんですか? あの課長がですよ?」

「あんたは何でそんなに嬉しそうな顔してんのよ? まるで誰も知らない秘密を知って喜んでる子供みたいね」

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