Love encore-ラブアンコール-
 何事もなかったかのように次の朝は訪れる。

 オフィスに顔を出すと、待っていたのはお決まりの言葉だった。

「東谷くん、困るんだよ君ねぇ! 大体電話の一本もよこさないなんて、社会人としてどういう見解を持っているんだね。有休だってよっぽどのことがない限り予め申請しなければ取れないんだよ。それは解ってるね?!」

「有休取るつもりなんてありませんから」

「そういうことを言っているんじゃないんだ、東谷くん。君は昨日無断欠勤をしたんだよ。いや、昨日だけじゃない。今までだってもう何度もしてるじゃないか。一体何度こう注意すれば解ってくれるんだね?」

 そんな言葉はあたしの耳にほとんど届いていないっていうことを、この男はまだ解っていないらしい。唾液を飛ばしながら意気揚々と大きな声を出し続けている下品な男に、軽蔑の目を向ける。

「…もういいですか?」

「ん?」

「もうお話はよろしいでしょうか?」

 男はあたしの反抗的な態度にますます腹を立てたらしい。

「まだだよ! 今日こそ言わせてもらうぞ。これはもう私の立場でしっかりと言わせてもらう…」

「もう時間がないんですけど」

「何の時間だね?!」

「取引先との打ち合わせです。行かなくてもいいなら時間を取りますけど」

「…」

「あの?」

「早く行きたまえ! 大体そういうことは君、もっと早く言うもんだよ。まったく!」

 そのやり取りを見て、周りの若手社員は笑いを堪えている。その事態に気付いたのか、顔を赤くして威厳を保とうとするその男が、あたしには哀れに見えて仕方なかった。

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