Love encore-ラブアンコール-
 やっとのことで開放されデスクに戻ると、素早く出かける準備を始める。そしてまるでそれを待っていたかのように滝野が近寄ってきた。

「先輩、おはようございます。朝から大変ですね」

「あのおやじ、何であんなに張り切ってんの? 冗談じゃないわ」

「だから、出世したからじゃないですか。この間の飲み会から張り切ってましたよ」

「ああ…、そう」

「でも俺、昨日マジで心配しましたよ」

 相変わらず馴れ馴れしい滝野は、了解も取らずに隣のデスクに腰を下ろす。

「…何を?」

 バッグの中に必要なものを詰め込んで一息ついたあたしは、何も考えずにそう答えた。

「一昨日、なんか変なこと言っちゃったから」

 その言葉にあの不快な夜のことを思い出す。

「でも良かった。今日ちゃんと来たし」

「別にあんたのために来た訳じゃないし」

 それだけ言ってあたしは勢いよく席を立った。

「俺、頑張ります!」

 周りにも聞こえるような声でそう言い放つ滝野に、あたしは今日もうんざりしていた。足を止めかけた後、やっぱり無視することに決めるとそのまま歩き出す。

 滝野が後姿を見送っていることは解っていた。その視線にいたたまれなくなって出入り口付近で振り向く。そしてやっぱり中身のなさそうな単純な笑顔に吐き気を感じる。

「あんた…」

 そこまで言いかけてやっぱり口を噤んだ。不思議そうにこちらの様子を伺う顔が見えて、ますますひどい吐き気が襲ってきたからだ。

「先輩?」

 扉が開く音が聞こえて、エレベーターに走りこむ。扉が閉まるまで目を伏せていたあたしを、滝野はずっと見ていたように思う。

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