Love encore-ラブアンコール-
5.『もう何もかもどうでも良くなってしまったわ』
『もう何もかもどうでも良くなってしまったわ』
あの子のその一言がすべての終わりと始まりを意味していたなんて、そのときのあたしには予想もつかなかった。
きっと先生もそうだろう。
精神科医の先生だって気付かなかったんだ。先生は予知能力者じゃない。そんなことぐらいあたしにだって解ってる。でもあたしはそれを求めてしまった。
あの子がああ言い放ったときから、すべては決まっていた。もう後戻りできないレールの上に、あたしたちは知らないうちに立っていたのだ。
ある晴れた夏の日の日曜日。
現在の仕事に就く前に勤めていたアパレル関連の会社を辞めてすぐのことだった。日曜日に家にいることがほとんどなかったあたしは、家で過ごす日曜日の午後を有意義に過ごしていた。
あの子は汗をかいたグラスを片手に持ち、木製の椅子に座ってゆらゆらと揺れていた。
膝よりも少し長い、赤地に白の細かいドットが入ったスカートから伸びる白くて細い足。キャミソールは細い身体にぴったりとフィットして、鎖骨だけが驚くほど浮き出て見えた。
『気持ちいいね』
『あら、いたの?』
あの子はあたしの声にそう反応したけど、振り返ってこちらを見ることはしなかった。
あたしはすらりと伸びる白い足と腕を後ろから眺めながら、その場に腰を下ろす。
『仕事やめたって言ったじゃない』
『そう? 忘れちゃったわ』
『何を言っても覚えてないわね』
彼女はあたしが何を言っても最近はほとんど覚えていない。このままどんどん忘れていって、そのうちあたしのことすら忘れちゃった、なんて言うのではないだろうか。