Love encore-ラブアンコール-
6.この優しさが、きっと時に凶器になる。
 大好きだったのは、優しい顔で微笑みかける家族と過ごす昼下がり。

 大嫌いだったのは、眉間に厳しい皺を寄せて何かに当たろうとするその人だった。

 その姿はあまりにも強烈で、すでに成人していたあたしでさえほんの少しの恐怖感を覚えた。

 でも共通していたものはあった。誰一人、諦めていなかったことだ。

 みんな一生懸命光を探した。出口を手探りで探して、辿り着いたところが先生のところだったんだ。
 
 あたしは会社帰りにふらふらと歩きながらそんなことを考えていた。ふと顔を上げると、大きなショウウインドウの前に自分が差し掛かっていたことに気付く。そのショウウインドウの中には初夏を匂わせる赤いワンピースが綺麗に飾られていた。

 もう、あれから何度目の夏が訪れるのだろう。

「東谷さん?」

 聞き覚えのある声が突然背後から聞こえた。振り向いて声の主に目を向けると、そこにいたのは久しぶりに見るスーツ姿の先生だった。

「何してるの?」

「今日は先輩と仕事で会う約束があったから。君は?」

「会社帰り。見れば解るでしょう?」

「ああ…そうだったね」

 相変わらずあたしのことを名前で呼ぼうとしない先生は、少しきつめの言葉を気にもせずに微笑みかける。

 この優しさが、きっと時に凶器になる。

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