Love encore-ラブアンコール-
 ガチャッという大きな音と共に下品な笑い声が耳に響いた。

「いやぁ、お待たせしたようだね。どうぞこちらにかけてくれたまえ。私はここの専務の飯田というものです」

 先ほどの男が飯田と名乗る男を連れて部屋へ戻ってきた。あたしは飯田の言葉に促されて、窓際から元いた場所へと戻る。

 名刺交換を素早く終わらせソファに座ると、容赦なくそのいやらしい視線があたしの身体全体を包み込んだ。

 ああ、吐きそう…。

 そんなことを考えていると、そそくさと先ほどの男がテーブルの上にあった契約書を手に取り説明を始める。

 飯田は突然真面目そうな顔つきを作ると、その話に耳を傾けているフリをし始めた。あたしはその様子をちらちらと伺うと、二人には気付かれないように小さな溜め息を付く。

 ハヤクジユウニナリタイ。ただ、それだけ。

 それから暫くの時間が流れて補足の説明を所々行うと、飯田は随分機嫌が良くなったようで、契約書に笑顔でサインした。

 あたしはいつもの愛想笑いでその場を取り繕うと、ねっとりとした視線を背中に感じながら、そのビルを後にした。

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