先生、キライ!
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 この事件があって、私は近藤先生が「好き」だと知った。好きになっていたということを、ヤスオちゃんの恋人の存在を知って認めるということは、恋と失恋を同時に経験してしまったようなものだ。
 
 辛かった。
 
 どんなに望んでも、先生の恋人にはなれない。
 
 切なくて、苦しくて、悲しくて、内蔵がぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。
 
 このまま、気持ちを私の中に沈めてしまおうか?
 
ヤスオちゃんに言っても、きっと「何言ってんの?」とクールにかわされるような気がする。


 私は「恋」というお化けに取り憑かれてしまった……

 ヤスオちゃんの笑顔から顔を出す八重歯のことばかり考えていた。ヤスオちゃんのチョークを持つ整った長い指ばかりを見つめるようになった。ヤスオちゃんの声は気持ちのいいアルトで、数字って綺麗なんだってヤスオちゃんを通して勉強した。うん、素直に数学勉強している自分が可愛いなあって少し思えるようになった。

 この気持ちだけでも伝えたい……

 キライな大人が、少し理解できるかもしれないと思えたのも、先生の仕事の大変さを知ることができたのも、ヤスオちゃんがいつも本音で私と向かい合ってくれたから。

 飾らずに、卑屈にならずに、偉そうでもなくて、俺はいつでも俺だって真剣勝負を挑んでいたヤスオちゃんだから、私の心に届くものがあったんだもの。

 カッコつけてるわりには天然ぼけがあって、憎めなくて……そんなヤスオちゃんが大好きだ!!っていう気持ちがぱんぱんになって、どうしていいのか、とうとうわかんなくなった。


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