俺のシンデレラになってくれ!
バイト中のあたしを褒めてもらえたことはわかった。


それは、単純に嬉しい。


クーポン券を配ってた時は、できるだけたくさんの人がウチの店のお客様になってくれるように……って思ってたし、笑顔や姿勢にも気を付けてた。


……まぁ、早く配り終えて、店内に戻りたかったっていうのもあるけど。


でもだからって、何がどうなったらシンデレラなんだ!


ていうか、“シンデレラ”って何!?



「篤。お前それ、やっぱり、ただの告白だったりする?」


「うーん……ある意味」


「ある意味?」



首を傾げる晴香を見て小さく笑うと、篤は大きな目を細めながら答えた。



「俺、結ってサークル入ってて」


「あ、それはさっき、雅也から少し聞いたよ。演劇サークルでしょ?」


「そうそう。公演の前には、メンバーの誰かが台本を書いて、演出っていう映画の監督みたいな役割を担当していくんだけど、結ではその役割を、基本的に3年生がやるんだ。
だから、来春の公演が、俺達の学年が初めて本格的に仕切れる公演でさ」



はしも置いて、背もたれから体も離して篤の話を聞いた。


少し騒がしさの抜けた食堂に、きらきらとした彼の声が響く。



「だからそこで演出をやるために、台本を作りたいんだ」


「それで、どうしてシンデレラ?」


「初めての演出だから……。だから、俺が1番思い入れのあるものを、俺の1番自信を持てる形で提供したいって思ったんだ」


「その、1番思い入れのあるものが“シンデレラ”ってことか?何か、篤らしいと言えば、篤らしいか……」



雅也の言う、“篤らしい”の意味は良くわからない。


でも、この人がかなりの変人だってことはよくわかった。


こんな変な人に付き合わされるなんて、迷惑以外の何でもない。



「それで、あたしにシンデレラになれってどういうこと?まさか、『結に入れ』とでも言うんじゃないよね?」
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