俺のシンデレラになってくれ!

膨れる晴香にそう言って、料理を注文する壁際のカウンターに促した。



“すいてる”とは言っても、お昼休みの今、カウンターには行列がある。


列に並んで自分たちの順番が来るのを待ちながら、あたしたちは壁に貼られたメニュー表を眺めた。


ここで料理を受け取ってから、今度はお会計のためにレジに並ぶんだから少し面倒臭い。



「そうだね。美砂は何にするの?」


「ランチセット。安いし、考えるの面倒だし、ボリュームあるし」


「ボリュームって……。花の女子大生の発言とは思えない」



トレーを持ってカウンター脇の列に並びながら、晴香が表情を歪めた。


メニューから視線を外さない辺りは、さすがだ。



「晴香と違って花はないからね」


「磨けばそれなりには光ると思うんだけど」


「磨いてもそれなりなら面倒じゃん。だいたい、どうやって磨くのかわかんないし」


「うーん……雑誌を読むとか、あーゆーのとか? あの感じだと、“結”かな?」



そう言いながら、晴香は食堂の外を指した。



“むすび”


晴香の予想が正しければ、あれは演劇サークルだ。


学内に立てられた公演の看板を見た記憶ならある。


晴香の指の先には、ジャケットとマフラーをがっつり身に着けながら、真っ赤になった素手でチラシを配る人の束が見えた。


目にうつる光景があたしの生活する場所とは別次元で起こってることに見えて、少し不思議な気分になる。



「サークルね……あたしは特に興味なかったしなぁ。晴香は楽しい?テニサーだよね?」
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