俺のシンデレラになってくれ!
あたしの記憶が間違ってなければ、一般的にはシンデレラにはそんな力はないって思われてるはずだ。
シンデレラ・コンプレックスは、王子様を待ち続けるだけのシンデレラみたいな女の人のことを表す表現だったはずだし。
きっとあたしにはわからないような、美容関連に敏感な家で育った篤独特の感覚みたいなものがあるんだろう。
「シンデレラみたいに可愛くしてあげる」
にっこり笑う紬さんに、思わず苦笑いを返す。
よく考えたら、美容院なんて半年ぶりだ。
伸びっぱなしだったこの髪が、タダでどうにかなるならありがたい。
……そう思うしか、この状況を受け入れる術が思いつかない。
「よろしくお願いします」
「うん。任せて!」
イスに座りながら微笑むと、鏡の中の紬さんが今日一番の笑顔をくれた。
5
「紬天才! ばっちりだよ!」
カットが終わって最初の部屋に戻ると、いつからそこにいたのか、篤がソファーに座って本を読んでいた。
「あんたの適当な説明でここまでやったんだから、もう少しちゃんと褒めてくれてもいいんじゃない?
子どもじゃないんだから……」
「紬さん、ありがとうございます」
呆れたように息を落とした紬さんに、あたしはゆっくりと頭を下げた。