俺のシンデレラになってくれ!
思い出したようにピンクの袋を指した篤を見て、軽く頷く。
「じゃあね」
普段ならこんなこと言わないのに……。
小さくそう言ってから背を向けたのは、少しだけ、美容室に連れて行ってくれた篤に感謝してるからなのかもしれない。
何かきっかけがないと、自分だけでは絶対に行かなかった。
パーマになんて、挑戦しようと思わなかった。
ワックスなんて、手にも取らなかったはずだ。
……本当に、こんなのバイトって言うんだろうか。
お金を稼ぐのは簡単じゃない。
大学でぼーっとするのも、一生懸命勉強するのも、実は簡単じゃない。
人生なんて、そんなに簡単じゃない。
それなのに、あたしはこんなにも簡単にいろいろなものを手に入れてる。
普段の自分とは違う篤の価値観に戸惑う苦労はあるけど、そんなのバイトの日の早起きに比べたらどうってことない。
……魔法使いのおばあさんにドレスやカボチャの馬車を用意してもらった、シンデレラみたいだ。