窓下の愛想
急告

「ねぇ、ちゅぅして」

コーヒーを飲み干した彼女が

いきなり僕の頬を両手で挟み、言った

「ちゅぅしよ」

僕は軽く頷き

彼女の手を取り

唇を重ねる

彼女の言う「ちゅぅ」とは

所謂、「フレンチキス」とは違う

「ちゅぅ」という言葉からは

想像もつかないほど深いものなのだ

重ね合わせる唇

お互い目を閉じていたが

何の気無しに僕は目を開けた

視線の先には時計があった

16:10

あと1時間もないな

急に切なくなってきた

……………………………

公園でくだらない会話をして

既に車を走らせていた

面白いもので

会社で話す時はプライベートな事

今さっきまで話していた事は

主に仕事など会社の話し

もっと楽しい話しもあるだろうに

でも、自然体になって出来た会話がそれなのだ

帰り道そんなことを考えていたら

なんか、笑えた

「なーに、ニヤニヤしてんの」

僕の顔を覗きこみ

そう言った彼女の顔もにやけていた

そんな彼女に対して

僕の口から出た言葉

彼女への気持ちは高まりっぱなしだったが

心は冷静だった

自然体でその言の葉たちは発っせられた

今日こうして逢えたこと

自分はとても嬉しかったこと

そして、確立された彼女への想いまでもが

僕の心を抜け出し

言の葉に乗って

飛び出して行ったのだ

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