窓下の愛想

まともな返事が出来なかった僕は

「ちょっと待ってて」

一言だけ言って

ふたりきりだった喫煙室を出た

急いでロッカールームまで行き

自分の携帯を手に取った僕は

すぐに引き返し

メアドの表示画面を出すと

「はい」

と、それを彼女に渡した

「ありがと」

満面の笑顔で携帯を受け取った彼女に

僕は見とれていた

性格がきつめの彼女が

これほどの笑顔を見せることは

滅多にない

だからこそ僕は

彼女の笑顔が大好きだった


「登録しちゃった」

しばらく必至な表情で

ふたつの携帯を手にしていた彼女は

再び僕の大好きな笑顔を浮かべて

はい、と、携帯を僕に返してよこした

「そっちのも教えろよ」

「後でメールするよ」

彼女は悪戯に笑った


この日のやり取りは一生忘れない

こんなにも彼女の笑顔を堪能出来たのは

この日が初めてだったから

< 4 / 18 >

この作品をシェア

pagetop