西の塔に酉
「近々……」静観していたロヴィーサがおもむろに口を開く。「近々、ラディナ大国はハウンベルクへ進軍なさるとか……アロワ殿、どうかお顔をお上げになって」
ヴィローサは目が合ったアロワににこりと微笑む。アロワの頬に朱がさす。
「その際、我がアムーニアは駐屯地にちょうどいいわね。で?」
「は? ……失礼」
「お気になさらず。なんでしたっけ? ああ、そうそう、前金とやら。わたくしは実際にこの目にしてないのですが、ディラナ王室のお墨付きですもの、相当の品々なのでしょう。それで、アムーニアを買収……割に合わないのではなくて?」
「わ、割に……」
唖然とするアロワに、ヴィローサは目を細める。
「ふふ。ディラナ大国のね」言って、ヴィローサは少女の顔で笑った。「だってそうでしょう? あなたが仰るとおり
、アムーニアは買収するに足らない国よ。軍はもちろん資源も商業も産業も何もない、あるのはないものだけ」
くすくすと、アロワは鼻を鳴らした。
「いいえ。アムーニアには、美しいだけでなく、ご聡明な王女がおわします」
「そういうことね」アロワに微笑んで、ヴィローサは国王を見据える。「お父様……いえ、国王陛下。ヴィローサが嫁ぐときがようやくきたようです」
「ロヴィーサ……」
「ロヴィ――」
思わず王女を愛称で読んだケヴィンに、ロヴィーサは振り返った。
「ケヴィン……支度を手伝っていただける? 嫁入り支度ははじめてだから、ひとりじゃ心許なくて」
ヴィローサは目が合ったアロワににこりと微笑む。アロワの頬に朱がさす。
「その際、我がアムーニアは駐屯地にちょうどいいわね。で?」
「は? ……失礼」
「お気になさらず。なんでしたっけ? ああ、そうそう、前金とやら。わたくしは実際にこの目にしてないのですが、ディラナ王室のお墨付きですもの、相当の品々なのでしょう。それで、アムーニアを買収……割に合わないのではなくて?」
「わ、割に……」
唖然とするアロワに、ヴィローサは目を細める。
「ふふ。ディラナ大国のね」言って、ヴィローサは少女の顔で笑った。「だってそうでしょう? あなたが仰るとおり
、アムーニアは買収するに足らない国よ。軍はもちろん資源も商業も産業も何もない、あるのはないものだけ」
くすくすと、アロワは鼻を鳴らした。
「いいえ。アムーニアには、美しいだけでなく、ご聡明な王女がおわします」
「そういうことね」アロワに微笑んで、ヴィローサは国王を見据える。「お父様……いえ、国王陛下。ヴィローサが嫁ぐときがようやくきたようです」
「ロヴィーサ……」
「ロヴィ――」
思わず王女を愛称で読んだケヴィンに、ロヴィーサは振り返った。
「ケヴィン……支度を手伝っていただける? 嫁入り支度ははじめてだから、ひとりじゃ心許なくて」