西の塔に酉
 こんなに近くにいたなんて。

 手を伸ばせば、ほら、すぐに触れられる。

 柔らかくて、温かくて、涙が出るほど愛おしい。

 そんなこと、わかってた。

 君を守りたいと、強く願ったあの日から、1年ごとに、1日ごとに、1秒ごとに、わかりつづけてきた。思い知らされてきた。

 自分には、守ることなど叶わないと。

 そう思うことすら、おこがましいと。

 わかってたから、誰よりもそばにいながら、触れられずにいた。

 触れてしまえば、もう――ほらみろ、全身が、四肢が、指先まで、痛い。

 ひっ、と、ロヴィーサの喉が鳴った。ロヴィーサの頬に添えたケヴィンの指が濡れる。

 追いかけるケヴィンの舌を、ロヴィーサがやわらかく噛んだ。

 そのまま噛み千切ってくれればいい、とさえ思う、自分のずるさに反吐が出る。

 この時のために、長い時間をかけて覚悟を固めてきたと思っていたのは、勝手に大人になった頭の中だけで、肝心の心はそれを拒否し続けていたんだと、やっと気づく。

 そもそも、別れに覚悟なんかつくはずがない、と。

 結局はこうやって、守りたかった大好きな女の子を、自分の傲慢さで傷つけて泣かせて――

「ひどい……ケヴィンなんか嫌いよ……大嫌い」

 ――そうして、彼女の背中をこの手で押すんだろう。
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