西の塔に酉
***
アロワらが出国してから、5日経った。
いくつ国を落としても、どんな大きな戦にも、これほどまでに眠れなかった夜はない。
目を閉じれば鮮明に思い出される。
およそ王女に似つかわしくないはつらつとした笑顔と、そこにいた大人の肝を冷やす率直な言葉を持つ少女はキラキラとして、20年以上経った今も記憶の中で色褪せない。
ラディナ大国の現国王リュシアンは、幼いあの日、ひと目で恋に落ちた。
「陛下……?」
ベッドの中で自分を見上げる后は、彼女以外の誰かでしかない。
「……いかがいたしましたか?」
彼女はこのように媚びた目をするはずがないのだから。
「いや……すまない」
起き上がって寝間着を直せば、直したそばからその裾をつまんでいじらしく引っ張る。
おざなりにでも抱けばそれなりに情はわくが、政略結婚のそれは、やはりそれなりなのだということを、この十数年で嫌というほど思い知った。
「本当にすまない。今夜はそういう気分になれそうもない」
同じ文句で他3人も夜の務めを放棄すること、5日目になる。こればかりは本当に気分が乗らないのだから仕方がない。
「デ、デルフィナ様のご寝所へ……?」
今にも泣き出しそうな第二王妃が恐る恐る口にしたのは、大陸一の貿易国から嫁いできた第一王妃の名だ。
リュシアンは苦笑いして、第二王妃のほっそりとした指を寝間着からそっと外す。
「いいや、自室に戻るよ。泣かないでくれ、ウラ。君がよくないということではない。もちろんデルフィナたちのほうがいいということでもない」
彼女――ロヴィーサ姫のほかは、みな同じというだけ。