西の塔に酉
 ロヴィーサねえ……、とエルドラッドはひとりごちて床に転がる。

「まさか、兄上のあんなちょこざいな手で落ちるなんてな」

 大陸全土に名を馳せた美女も、結局は金か権力か、それとも。

「あー、なんつったっけ。そうそう、ケヴィン。ケヴィン=オングなんとか。あんだけケヴィンケヴィン騒いでたくせにいいのかね」

 人は変わる。

 美しい月でさえ、日ごと変わるのだから、醜い人の心などいとも容易い。

 エルドラッドは寝返りをうった。疲れた。ベッドに移動するのも億劫だ。

「……月日の経過ほど恐ろしいものはないってか」

 床の冷たさと硬さが心地良い。

 目を閉じればまた暗闇も心地良い。
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