西の塔に酉
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「す、すごい人だわ」
馬車の中、ロヴィーサはシートの背もたれにピタリと背中をつけ、動悸に胸を押さえながら横目で窓から外を覗く。
ロヴィーサが生まれ育った国の全人口の2倍はこの門前に集まっているのだから、もう恐怖の一歩手前である。
様子をうかがえば、なにやら楽しげで、どこからか指笛も聞こえてきた。
「……お祭りと重なっちゃったのかしら」
お祭りは好き、と、とたんにワクワクしだす。
あっという間にワクワクが抑え切れなくなったロヴィーサが窓から顔を出そうとしたとき――ガタン、前につんのめるようにして馬車が止まった。
「あ、ぶな……」
危うく窓枠に顔面を強打しそうになった一国の王女へ、その窓からアロワがのぞき込む。
「ロヴィ。ごめんね」
「ん? なにが?」
ロヴィーサは騎上のアロワに首を傾げる。
「こんなごった返しちゃってさ。しばらく車は動けなそうだ」
「へ? もしかして車が動けないことに対して謝ってるの?」
「え? ……ああ、そうだね」
何かに合点いったらしいアロワが何度か頷き、それを見て、ロヴィーサも何かに納得がいったようだ。