西の塔に酉
「ロヴィ」

 ケヴィンの指先がロヴィーサの背中に、つと触れる。

「んー?」

 ロヴィーサは紅をさしながら、鏡越しにケヴィンを見やる。

「君は……本当に変わらないな。子供の頃からひとつ」

「ケヴィンは変わったね。……そういうふうに喋ってくれなくなった」

「そりゃあ……」

 とケヴィンは小さなぼたんをひとつずつはめていく。

「……みんなで野山を駆けて遊んだころが懐かしい」

「ああ、あのころは楽しかったね」

 自分とロヴィーサの間に、なんの壁も見えていなかった。ロヴィーサが自分に笑いかけて、それが嬉しくて、何も考えずロヴィーサを抱きしめることができた。

「ねえ、ケヴィン。覚えてる? 私、山で迷子になっちゃって」

「覚えてるよ。国中の大人総出で大捜索した」

「でも、見つけてくれたのは、ケヴィンだった」

 身を隠すように雨を凌いでそのまま眠ってしまったロヴィーサを、見つけたのは他の誰でもない、ケヴィンである。

「そうだっけ」

 本当は覚えている。
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