男友達
「やっちゃった。」
つぶやいてみる。
「ありがと。」
後ろから声がした。
振り返ると、卓也がいる。
「み、見てたの?」
「ん。」
「そう…。」
あの人に言われたことを頭の中で反芻する。
好き。なのかな。
好き。だよ。友達だもん。これは、友達としてじゃないの?だから苦しかった
の?もやもやしたの?
こんなに、こんなに、一生懸命になれたの?
「どしたの?帰ろう。」
「うん。」
卓也がそっと、手をつないできた。
ドキッとする。
冷たい左手。私を見ている。
「な、何?」
「なんでもない。早く帰ろ。」
手をつないだまま、無言でマンションへ帰った。
玄関に着くと、携帯が鳴る。卓也の手を離し、出る。清水からだ。帰ったら電
話すると言ってあったのを忘れていた。22時ころには戻ると言ってあった。も
う23時を迎えようとしていた。
「ごめん。今帰ってきたんだ。」
「うん。…うん。疲れたからすぐ寝るから。また連絡する。」
じゃあ、また。と電話を切る。
「かれ…し?できたの?」
「彼氏ではないけど、会社の後輩で、最近時々会ってる。」
鍵を開けながら、素直に言った。
「ねえ。そいつと…。なんでもない。帰るわ。今日は本当にありがとう。」
そう言って、帰って行った。